2026.09.24
【DJ’s CUE】#1 FELINE (PART-2)
【インタビュー】FELINEが語る、DJの現在地──「もらう、上げる、壊す」からはじめるフロアとの関係
取材・構成:高橋圭太 aka shakke
撮影:Ray Otabe, Taniura Ryuichi
──PART-1では、DJをスライドパズルのように捉えていた時期を経て、最近は粘土遊びのような感覚になってきたという話がありました。
FELINE 一時期、めっちゃ頑張って、自分のDJのすべてを言語化できるようにしようと思っていたんです。
今、渋谷のBRIDGEで毎月第3水曜日に川辺ヒロシさんと2人会をやらせてもらっていて、それがもう3、4年くらい続いているんですけど。
それが始まったタイミングで、ハウスとディスコのマナーをちゃんと覚えてみようと思って、そっちの勉強もしつつ、自分のDJについても言語化する努力を始めました。
ここ3年くらいまではそれを頑張っていて。自分の頭で説明できないことをやらないようにするというか、ちゃんと理論立ててDJをすることに挑戦してみたんです。
それがうまくいったかは分からないですけど、頑張った結果、そっちの考え方はある程度できるようになった。じゃあ、昔のもうちょっと自由形だった自分ももちろん残っているので、今度はそれをいい感じに合わせられるんじゃないかなって。
それで去年の秋口くらいから、「言語化しなくてもOK」というルールを自分の中で定めて、またちょっと自由形の感じに戻ってきていて。
もともと勘でずっとやってきちゃったんですよ。明確な師匠みたいな人もいなければ、たくさんフィードバックをもらって育ってきたタイプでもないので、本当に自己流すぎて、全部ノリでやっちゃっていた部分があって。
そのノリだけでやり続けることへの怖さもあったし、再現不可能なものだから美しいとも言いますが、もうちょっと再現性があってもいいんじゃないかなって一時期考えて。それでトライしてみたという。
──感覚だけでやり続けることによるマンネリ化もありますよね。
FELINE そうですね。やっぱりルールがあった方が面白いと思う自分もいるので。縛りプレイじゃないですけど、そういうことを実はこっそりやっています。
──あえてルールを作ることで見えてくるものもありそうですよね。
FELINE そうですね。やってよかったなと思います。これからさらにそう思えるかどうかは、今後の私にかかってくるんですけど。
──エフェクターは使いますか?
FELINE 使うんですけど、かなり絞られています。最近フィルターの使い方をちゃんと覚えました(笑)。
あと、お気に入りのエフェクトがあって。スペースですね。ダブエコーより広く響いてくれるので、突然ドロップで無音になっちゃう曲とかもカバーできたりして、結構使っています。
それ以外でいうと、エコー1本。ほかのエフェクトは、正直まだ私のスキルではうまく使いこなせないので。
──これまでクラブで使ったミキサーの中で、一番自分にフィットするものは?
FELINE 好みでいうとDJM-A9が好きですね。
ハイ、ハイミッド、ローミッド、ローみたいにEQが4つあるミキサーがあるじゃないですか。DJM-V10だったり、ALLEN&HEATHだったり。まわりにもそれが気に入っているDJがすごく多くて、理由を聞くと「あ、なるほど」と納得できる自分もいるんですけど、ちょっと私には手に負えない部分が多くて。
──タスクが多すぎる。
FELINE そうですね。それに、自分がかけたい曲との相性があんまり合わないのかもなと思うタイミングもあります。
自分のミキシングスタイル的に音を残しがちで、干渉する帯域が絶妙に人間の声を削っちゃいすぎていて、「私、この部分を残したいのにな」みたいなことが頻繁にあって。
そういう意味で若干の苦手意識がありつつも、仲良くなりたいなとはいつも思っています。
1曲目は「もらう、上げる、壊す」の3択
──ここからは、DJをしているときのマインドセットについて訊かせてください。ブースに入って前のDJからバトンを受け取り、自分の1曲目を選ぶとき、どんなことを考えていますか?
FELINE 最初に考えるのは、「このままもらうか、上げるか、壊すか」の3種類ですね。
「もらう」というのはキープするということなんですけど、まずその3パターンから考えます。その方向性を決めて曲を探して、もし見つからなかったら、もう一度考え直す。
──一度ペンディングする。
FELINE そうですね。ただ、選曲には結構時間をかけて、自分の中で納得できるところまで準備してきているので、基本的にフォルダの中から見つからないということはあんまりないんですけど。
──選曲する段階で、前のDJがどういうプレイをするのかもある程度想定していますし。
FELINE そうですね。あと、出番前はなるべく早く、可能であれば音出しとかオープンの時間からパーティーに入るようにしています。
全体の流れをずっと聴きながら、「自分のDJまでにはこういう感じになっているかな」といろいろ想像して、フロアをうろうろしたり、お酒を飲んだりしていて。
なので、その場になって焦ることはあまりなくて、いくつかアイデアが浮かんだ状態でブースに入ることのほうが多いです。
──その3つの中の「壊す」というのは、具体的にはどういうことでしょう?
FELINE 例えば、一晩を通してグルーヴが一貫しているパーティーではなくて、ライブが挟まったり、いろんな色があるパーティーだった場合、前の人からそのままもらうと、逆にお客さんが飽きちゃうこともあると思うんです。
なんなら、前の人が頑張って作ったものをただ引き継いだだけで、「今日、自分は何もしてないな」みたいなことにもなりがちなので。
そういうときは一回リセットしますね。基本的には1曲目はそのままもらって、2曲目で雰囲気を変えることが多いです。
──その日のお客さんの年齢層や、かけた曲に対するリアクションは、どのくらいプレイに影響しますか?
FELINE 表情とか見た目はあんまり見ていないですね。そこはそんなに考えていなくて、元気か、元気じゃないかみたいなところを見ています。
あとは、基本的に肘のラインから下を見ることが多いです。体のどこが動いているのかな、みたいな。
リアクションの大きさにはめっちゃ引っ張られちゃうので、いつも冷静になろうとはしています。
ものすごくリアクションを返してくれるフロアも、ありがたいことにたまにありますけど、そうなるとこっちもブチ上がっちゃうので。それだと多分よくないなと思うんですよね。
どちらかにコントロール権がある状態だったら面白いことが起こると思うんですけど、お互いにコントロールを失った人たちがただそこにいるだけになると、軸がなくなっちゃう感じがしていて。
あくまで自分のDJに関しては、ですけど。なので、できる限り冷静でいようと思っています。とはいえ、引っ張られはします(笑)。
──「肘から下を見る」というのが興味深いです。どの帯域が踊っている人に効いているのかを見るような感覚でしょうか?
FELINE それもあるんですけど、横で踊りたいのか、縦で踊りたいのかとか。あとは、話し込んではいるけど体は動いているな、とか。
どうしても動きが大きい人のほうが目につくと思うんですけど、多分フロアで重要なのはそこだけではないと思っていて。
話すことが楽しくてクラブにいる人たちも多いと思いますし……もちろん私もそういう日はたくさんあるので。じゃあ、「どの層に向けてどういう曲をかけようかな」と考えるときに肘から下の部分を見るんです。
めちゃめちゃ大盛り上がりというわけじゃなくても、自然に体が動いているなら「やっていることは間違ってなさそうだな」という判断基準になる。
だから、帯域で判断しているというよりは、自然に体が動いちゃっているかを見る感じですかね。
──自分のDJやクラブでの振る舞いについて、「これはやらない」と決めていることはありますか?
FELINE めっちゃありますね。
DJでいうと、さっきの話とちょっと重複するんですけど、チャレンジしなかったり、安牌を取りに行きすぎたりすることは、できる限り避けたいと思っています。
クラブでの振る舞いでいうと……飲みすぎないようにする(笑)。
朝5時過ぎ、WWWで鳴らしたナードコア
──これまでDJをしてきた中で、特に印象に残っているパーティーや出来事はありますか?
FELINE いっぱいあるんですけど、DJの思い出として話すと、3、4年くらい前にAVYSS主催の「AVYSS Planet」というイベントが渋谷WWWでやっていて。
その日の自分の番手がクロージングだったんですけど、「ナードコアセットで」というオーダーだったんですね。
「クロージングにナードコアセットか」と。しかもデイパーティーじゃなくて、ナイトのクロージングなので朝なんですよ。
とはいえ、みんなでいい感じに、気持ちよく終われるように選曲も頑張って。いざ当日行ってみたら、進行が1時間押していたんです。
──朝5時過ぎからナードコアをかけることになった。
FELINE そうなんです(笑)。
ただ、そのときのWWWってステージ上からお客さんの顔がすごく見えやすかったのもあるんですけど、みんなの表情がよくて。それがすごく印象に残っています。
最後のクロージングの曲に、なぜか Major Lazer & DJ Snake「Lean On (feat. MØ)」をかけたことまで覚えているくらい。
自分でも「なんで?」って思いながら。「ナードコアとは?」みたいな(笑)。
でも、その時間帯もそうだし、やっていることもそうだし、「こんな時間まで残ってくれてうれしいな」という気持ちもあって、かなり思い出深いですね。
あともう1つ、同じWWWで、今年の2月頭にゲーム「サルゲッチュ」サントラのレコード化を記念したパーティーがあって。
そのときはステージの下でDJをやらせてもらったんですけど、本当にすごくて。
DJ中、普段VJが映されている後ろのスクリーンに、フロアのどこかに設置されていた「サルゲッチュ」を自由にプレイできるコーナーのゲーム画面が映し出されていて。
会場はもうパンパンで、みんな楽しそうに踊っている。でも、誰一人DJのほうを向いていなくて(笑)。ブースの真ん前にいる人たちですら、私を通り越して後ろのゲーム画面を見ている。
──FELINEさん越しに「サルゲッチュ」を。
FELINE そうです。でも私、すっごいうれしくなっちゃって。
「これ、理想だな」って思ったんですよね。全部が一体になっている感じがして。
一体感が好きかと言われたら、それはまた別なんですけど。でも、「DJとしての役割ってこれかもな」みたいな印象があって。それはかなり思い出に残っています。
──ベストなパフォーマンスをするために、普段の生活で意識していることはありますか? フィジカル面でもメンタル面でも。
FELINE 自分のDJスタイル的に、常にものすごい数の選択肢を増やしている状態なんです。
だからDJ中に選ばなきゃいけないこと、決断しなきゃいけないことがすごく多い。
そうなると、頭の中にある程度余白を作っておかないと、多分いっぱいいっぱいになっちゃって、あんまりいいパフォーマンスにならないと思っていて。その余白を作ることは意識しています。
じゃあ、そのために何をしているかというと……もう睡眠ですね。
とにかく寝る。それだけです(笑)。
──音楽以外のインプットで、DJに生きていると感じるものはありますか?
FELINE たくさんあるんですけど、その中でも長く続いているのは読書と展示巡りですね。美術館とか博物館の企画展に行くこと。
あとは、可能な限り見たことのない景色を見に行く。……「見たことのない景色を見に行く」って、なんか歌詞みたいで恥ずかしいんですけど(笑)。そういうことは意識してやるようにしています。
──読書ではどんな本を読みますか?
FELINE 文芸書が好きなので、小説ですね。長編、短編問わず、SFだったり、シュルレアリスム的な世界観だったり。日常をベースにしていないものを読むことが多いです。
そこで自分にはない視点を得られることが意外と多くて。
あと、ミックス制作にも結構活きるなと思っています。ストーリーを軸に建て付けを考えたほうがきれいにまとまることがあるので、そのアイデアとして使うことも多いですね。
──展覧会はどういうものを観に行きますか?
FELINE いろいろ行くんですけど、他人がものすごい時間をかけて作り上げたものを、この金額で見られるんだみたいな面白さがあって。
自分から触れようと思わないとなかなか行かないものだと思うんですけど、「むしろめっちゃお得じゃん」みたいなことに気づいて、行くようにしています。
あと、1人の作家を特集した展覧会。分かりやすいところでいうと、ゴッホ展とかモネ展みたいなものだと、解説がすごく充実していて、作品の背景もしっかり知れるじゃないですか。
ものすごく時間をかけて作られた作品が完成に至るまでの思考回路や流れを知れるのは、めちゃくちゃ勉強になるなと思って頻繁に足を運んでいます。
──現実的な話として、DJのギャランティーはどのような基準で考えていますか? 具体的な金額までは結構なんですが、報酬を設定するうえでの考え方について伺えればなと。
FELINE 今は事務所所属になったので、そういったお話に関して非常にお世話になっているんですけど。
個人でやっていたころ……それこそ本当につい最近までの話なんですが、箱の規模感を考慮して、その上でパーティーの内容だったり、教えてもらっている予算感だったりを含めて、相対的に考えていました。
なので、「絶対この金額じゃないと受けない」という感じではやっていなくて。割と柔軟にやらせてもらってるかなと思います。ほかのみなさんがどういう感じなのかは分からないんですけど。
──自分でギャランティーを設定するのって、すごく難しいと思うんです。自分自身にお金が発生することに対して、おこがましいっていう気持ちも生まれやすい。ただ、キャリアを積んでいく中でそうも言っていられない。その折り合いをどうつけているのかが気になって。
FELINE 難しいと思います。本当に難しかったし、いまだに難しいなと思っています。
私もお金をもらうのがしのびないなって気持ちは全然あるんですけど、そういうときに「あんたがもらわないと、下の世代のDJたちが困る」って言ってもらうことがあって。
そう言ってもらえると、自分の卑屈な部分が少し浄化されるのと同時に、本当にその通りだなとも思うんです。
オーガナイザーのみなさんも、単純に誰と誰のギャラを比べるようなことはしないと思うんですけど、みんなで上げていけたらいいなという気持ちもあるので。
──これまで海外ではどこでDJをしましたか?
FELINE まだ1回しかなくて。今年の1月に台北に呼んでいただいて(2026年4月撮影時)。
──台北でDJをして、日本のクラブとの違いは感じましたか?
FELINE 台北という場所自体が東京と近い雰囲気もあって、正直そこまで大きな差は感じなかったです。
現地の人が「ここは東京にも似ているし、ニューヨークにも似ているんだよ」みたいなことを言っていて。
人間交差点的な街というか。そういう雰囲気の街はだいたいこういう感じになるのかな、という発見はありました。
だから、クラブごとの違いはもちろんあるけど、「国内だから、海外だから」という違いは、そこまで感じなかったですね。
──お客さんの反応については?
FELINE それも、私が出た日だけなのか分からないんですけど、Rabbit holeというクラブでDJをさせてもらって。
見た感じなので合っているか分からないですけど、観光客の方も結構多かったのかな。
リアクションがダイレクトに伝わりやすかったり、「つまらなかったらもう帰っちゃおう」みたいな厳しめな感じのお客さんも多かったんですけど、「でも、これ東京でも全然あるしな」みたいな(笑)。
なので、台北ならではという雰囲気は、そこまで感じなかったですね。
「この曲、聴きたかった」と思わせられるDJになりたい
──最後に、DJとして今後どうなっていきたいですか? 10年後、20年後といった未来でもいいですし、具体的に達成したいことでも構いません。
FELINE 「このクラブに出たい」とか「このフェスに出たい」みたいな具体的なゴールは、正直ないんです。
それより、さっきからずっと話しているような内面的な部分を、自分なりにコツコツ努力して、その結果としてそういう場所に出られたらうれしいなと思っています。
だから、まずはDJのスキルをもっと上げたいですね。
あと、自分が尊敬しているDJの1人に、言い方が悪いんですけど、毎回「詐欺師みたいなDJだな」と思う人がいて。お客さんが「この曲、聴きたかったんだよね」っていうことってあると思うんですけど、実のところ、本当にその曲を聴きたいと思っていたとは限らないじゃないですか。
むしろ「この曲、聴きたかったんだよね」って思わせられたら勝ち、みたいな。
──そこまでの流れを誘導していくような。
FELINE そこまでの構成によって、その曲がたまたまその人にめちゃめちゃ刺さって、「私、この曲を聴きたかった気がする!」って思って、めっちゃうれしくなる。そういう流れもあると思うんです。
「この曲を聴きたかった」と思わせられるDJって、めっちゃカッコいいかもと思って。そういうDJになれたらとは思いますね。
──PART-1で話していた「好きなものを増やせるDJ」というところにもつながりますね。
FELINE そうですね。
自分のDJスタイルって、いろんな形になれるところがいいところかなと思っているので。
いろんな顔を持ちながら、皆さんを楽しくさせられたらめっちゃうれしいな、という感じです。

